ニュース

社長インタビュー「BARI-SHIP、そして、今治造船のVISION」

激動の2008年を振り返って

昨年、2008年は今治造船、造船業界にとって激動の年になったと思いますが、昨年を振り返って、率直な感想をお聞かせください。

2008年が始まった時から2007年が最高の年で、これからは徐々に下がって来るであろう事は予想していたのですが、ここまで急激に今のような状況になるとは正直思ってもいませんでした。ましてやBDIインデックスが最高の年と思っていた2007年の指数を超えたわけです。考えが間違っていたのかなと思っていたら9月に急激に落ちてきました。 ある人が「天国と地獄がいっぺんに来た。」と言っていましたけど、例えとして2008年の状況を言い当てていると思います。

では、2008年の戦略はどのように考えられましたか?

2007年でほぼ短納期船台を埋めた事から、2008年からはその戦略を先物受注に切り替えました。私達は2008年に受注した船の殆どが2012年、2013年、2014年納期の船で、先物受注の積み増しを行っていったわけです。
このあたりが他社とは大きく違う戦略だったと思います。それが結果として400隻に余る受注残を抱えているという現状が積み上がったという事です。

一方、グループ工場内での災害、事故が目立ったと思うのですが?

そうですね。災害、事故によって共に働いてきた仲間の命が失われた事は、正直言葉では言い表せないところがあります。亡くなられた方、また、そのご遺族の方々には改めてご冥福をお祈り申し上げます。今後、絶対にこのような事を起こさないようグループ全社挙げて徹底した安全対策を行い、全従業員に対しても安全に対する意識付けを徹底的に行い、絶対に事故のない職場環境を整えていきます。

今治市初の国際海事展「BARI-SHIP」2009年5月21日(木)~23(土)開催!

5月21日(木)から今治市で初の海事展「BARI-SHIP」が行われますが、開催に至るまでの経緯を教えて下さい。

もともと世界で行われている海事展は、船主さんが多く集まる船どころで行われています。世界最大の船主軍団はギリシャで、世界の約12%のシェアを誇っています。続いてノルウェーの船主、日本の船主、香港船主、ドイツ船主が続いています。従来はギリシャのアテネ、ノルウェーのオスロが二大海事都市として、船主の集積地として知られていますが、日本の四国、愛媛もそれに匹敵する船主さん達がいるわけです。

愛媛にそんなに多くの船主がいるという事はほとんど知られていませんよね?

日本、いや地元愛媛においてもほとんど認知されていないのが現状です。確かに、その業界の人であれば四国には色々な造船所、船主さんが多いという事を知っていますけど、一般の方々にはまだまだ知られていません。その事が引いては造船、海運業界に若い人達が集まらない状況を生み出しているわけです。

確かに自動車産業、電機産業等に較べると、商品の宣伝のためにテレビCMを出す事もないわけですからね。

そうですね。自動車産業、電機産業に比べて、どうしても海事関係はPRが少ない状況が続いていましたので、一度、愛媛船主が集積する今治市で海事展をやってみようじゃないかというところから話が始まり、前今治市長にもご賛同頂いて、わざわざ一昨年ノルウェーのオスロで開かれている海事展、ノルシッピングを一緒に視察に行って頂き、今年正式に今治市で海事展が開催される運びとなりました。当社を含め、今治地域の造船会社、船主、舶用メーカー、この3つが主体となってこの海事展を行います。

他の海事展との違いはどういった所でしょうか?

元々海事展は船主さんに対して造船会社、舶用メーカーがプレゼンテーションをするものなのですがBARI-SHIPでは船主さんも一緒になって海事展をしようというのが他の海事展とは大きく違うところです。地元の海事関係の人達が協力して、日本全国、そして世界中の人達に来てもらおうとして動いているのは非常に珍しい事だと思います。

BARI-SHIPが開催される今治テクスポート
BARI-SHIPが開催される今治テクスポート

バリシップでは具体的にどのような事が行われるのですか?

各業界の方がそれぞれのブースを出展し、皆さんの受け入れをしようと考えています。今回は海事関連の方だけではなく、5月23日の土曜日には小学生を含む一般の方に対しても開放する事になっています。

子供達にとっても地元の産業を知る良い機会になりますね。

そうですね。このような機会は、なかなか無いと思いますので子供達にとっても非常に良い機会になると思います。 また、平日イベントでは今治国際ホテルにて海事関連のフォーラムを行う事になっています。基調講演では日本郵船の草刈会長(現 取締役相談役)を始め、東京の海事関連の方々が講演される事になっています。

目玉としては若手の経営者という事で、今治造船、ツネイシホールディングス、尾道造船、渦潮電機、阪神内燃機工業の若手というか中堅?(笑)、若手と言ってしまうと語弊があるかもしれませんので、 その中堅の社長のパネルディスカッションが行われ、私も参加させて頂きます。それに合わせて今治造船含め各造船所においても進水式見学会や工場見学会を行えるように現在準備を進めています。 また、行政の方にも工場見学会のPR、各工場を巡回するシャトルバスの準備など様々な協賛をして頂く事になっています。

工場見学会が開催される本社今治工場
工場見学会が開催される本社今治工場

日本の造船業界の今後について

マーケットが落ち込んでいる現在、今後の日本の造船業界全体に必要な取り組みは何だと思いますか?

まず船の価格というのは運賃相場で船価がはじき出され、海運マーケットによって価格が左右されます。家電等のように価格は決まっていません。 船価が2倍、3倍にぶれる事もあり、一つ一つのコスト積み上げによって決まる価格ではなく、市況の変動により船価は激しく乱高下します。勿論、コスト削減は図らなくてはいけないのですが、世界一安く造れるからといって儲かる経営ができるとは限りません。

2倍、3倍価格が動くというのは凄いですね。

そうです。造船業界は本当に厳しい業界である事は間違いありません。 ましてや現在のように韓国が1ドル900ウォンから1,500ウォンに下落して(※2009年3月インタビュー時)、また中国元もドルに対して下落している状況の中で、日本の円はドルに対して唯一切り上がっている通貨。 今後の日本の造船業として国際競争に出て行く事については、あまりにもリスクが大きい産業である事は間違いありません。 しかし、今治造船は設立以来赤字経営をした事がない造船所。船を造るだけなら恐らく世界中のどこでも出来ると思いますが、稼ぐ事が出来る造船所は少ないと思います。 何とか私達も日本の中である程度の建造規模と収益性を確保する事が出来ましたけれど、これからは国からの支援を受ける韓国、中国の造船業界と戦っていく事に対する怖さはありますが、一方でやりがいがあるのが日本の造船業界だと思います。

このような状況の中で重要になってくる要素は何だと思いますか?

それは如何に先を読んでいくか、この激動の世の中、先を読んだものが最後に利益を獲得すると思います。 単純にコストを安くすればいい話ではなく、より良い船造りの姿勢が基本にあり、そこから先を読む力がないと、やはり大きな落とし穴にはまってしまう事になると思います。

今治造船のVISION

今後の今治造船のVISIONを教えて下さい。

VISIONは経営理念でもある「船主と共に伸びる」です。船主さんあっての造船所、またオペレーターさんあっての造船所、また私が社長就任以来言い続けているのは、従業員、工場で働いて頂いている協力工の方々、舶用メーカー、その全ての連携によって今日これだけの建造規模を誇れるようになってきたと言う事です。まずこれが根本にあります。その中において今治造船は小さい船から大きい船、またLNG船のような高付加価値船まで造れるようなブランドに成長してきました。そのブランドを傷つけないように、より良い船造りにこれからも邁進していく事が重要です。

また、今まで地元の為、地場産業として一歩でも前に行こうという意識が連携を生み、たまたま今は日本一の建造量になっている状況であるという事をよく認識しておかなければいけないと思います。日本一になったからと言って、海外に大きく展開する事は考えていません。今は日本一かもしれませんが、これから先どうなるか分かりません。世界に展開するという事は、結果的に相手の国の誰かに犠牲を強いる事になりますので、それは今までしてこなかったし、これからもするつもりはありません。 確かに世界単一市場の中で国際競争をしている事は間違いないけれど、最後は地元に根ざす企業でなければならないと考えています。 どこにあるか分からないような根無し草のような企業ではこれから生きていけないと思います。

檜垣幸人代表取締役社長
檜垣幸人代表取締役社長

以前あるイスラエルの船主さんに「今治造船というのは地元に根ざした企業ですね。」と羨ましがられました。イスラエルでは日常的に戦争があり、多くの人々が土地を追いやられる状況が続いています。そんな状況の中、財を築き、お金も権力も手に入れた船主さんが、当社が地元に根ざしている企業であるところに魅かれ、それから優先的に注文を頂けるようになりました。

やはり地元に根ざした企業というのは人を大事にしているから、人が集まってきます。自分の会社だけ良ければいいと思っている会社は必ず後でしっぺ返しを喰らってしまいます。自分の会社を大事にするという事は人を大事にするという事とイコール。株主だけではない、従業員、取引先、そして地元を大切にする会社というのがやはり最後に生き残ると思います。地元を見る余裕がないという企業が今、圧倒的に多いというのが現状なのではないでしょうか?そこを蔑ろにして世界一を狙い、関係する人の犠牲の上に世界一になっても何の意味もありません。

今まで今治造船は地元で生き残れるように努力してきて、それがたまたま今このような状況になったと。それは運が良かったのかもしれませんが、それ以上の存在価値がその企業にあるのかという事です。もちろん、好きな船を造れるというのがあって、それプラス好きな事をしながら地元に残れる企業が今治造船の進むべき道です。
「今治造船」から「世界造船」に名前を変える気はありません。